悪いコの味方!


ちょうどのタイミングでチャイムが鳴った。

それにしてもこんなお天気でも撮影ってあるんだね。


教室のストーブが利いていて眠たくなってきた。

外はとっても寒いんだろうね。空が真っ白だよ。


自分の手を見る。

ささくれ、なし。赤みはちょっとあるけど荒れはない。つるつる…すべすべ。毛もなし。爪は昨日変えた。

恋を閉じ込めたみたいなツツジ色と今日の雪みたいなシルバーラメ。


あとは心臓と…気持ちだけ。


想像する。
憧れていた。
邪魔するみたいによく見ていた。

あたたかいのかな。冷たいのかな。大きい手なんだろうなあ。


……もう、わたしだけに触ってほしいなあ。


贅沢な感情を、たぶん、どこにも連れていけずに持て余している。



「帰ろ」

「うん」


毎日そうしているわけじゃないけど、けっこう一緒に帰っている。彼は絶対わたしより先に支度を済ませて教室の真ん中までやってきて誘いに来るの。


あれ、マフラーがうまく巻けない。焦る。



「ちょっと待ってね。新しく買ってもらったんだけど、朝もうまくできなくてやってもらって…練習しなきゃなあ」


「貸して」



すっと後ろに影ができる。

あ、手、ちょっと触れた。


ポニーテールの下に結び目を作ってくれる器用な手。


何これ……ど、どきどきする。すっごくどきどきする…。ただ優しくされているだけなのにそれだけじゃない。


「できた。行こ」


彼の染めたばかりの栗色の髪が揺れ、顔を覗き込んでくる。


「うん…」

「顔、赤い。今ので?」

「やあ…」

「毎日結んであげよっか」

「…練習します」

「そ」



……好き。


時々、叫びたくなるくらい。泣きたくもなる。何かをぎゅっとしたくなる。

堪えて堪えて堪えて…いつか破裂しちゃうんじゃないかな。

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