編集後記
指定されたカフェは大学のそばにあった。貧乏大学生に気を利かせてくれたのであろう、嬉しい配慮である。

遅れて店内に入って来た彼女は、グレーのスーツに固めた編集者然とした姿であった。こちらの服装は伝えてあったので視線を泳がせると、直ぐにこちらへ近付いて来た。
顔を見て、値踏みする。
上の中。可愛いタイプの女性である。
アップにした髪も、清潔感があって好感が持てる。TPOを理解している。それを僕が言うか。自己批判。

立って席へ迎えると、彼女は編集者らしい黒のショルダーバッグを席へ置くと、名刺を出して挨拶した。
「都築舞衣です。宜しくお願いします」
席へ着くと、ブレンドコーヒーで宜しいですか?と尋ねられたので、はいと答えた。2つ注文した。

「それで、鈴木先輩はどうかしました?」
僕の質問に、それ以前から笑っていなかった舞衣がより一層真顔になった。
「編集後記は知ってますよね?」
正直、ギョッとした。
つい先刻、そんな事を考えていたからだった。
書評を書く為、本を読み漁る。その際、必ず編集後記を読む。その本の持つ、他者からの意見を参考にしようと思っているからだ。
心の中を見透かされたようで、気まずかった。
「あの、それが何か?」
それだけ言うのが精一杯だった。
「私、鈴木孔の同僚なの。てか、同期。
会社に来てないの。無断欠勤。仕事はイマイチだけど、真面目なヤツだから無断欠勤とかはしないヤツなんだよね」
急にフランクになったのと、2回繰り返した“ヤツ”の言い方で2人の関係を理解する。
「それで、何故僕に?」
「そう!それ!そこなのよ」
怒った顔が可愛い。
「自分に何かあったら、ここに連絡してくれと書き置きしてあったの。それが、あなたの電話番号でした、了解?」
「はい」
僕の記憶は、遡っていた。








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