エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
「……もう遅い。部屋まで送るよ」

 いつもの言葉を口にすると、千春は唇を閉じてどこか物言いたげな視線で清司郎を見る。でもすぐに「うん」と返事をした。
 彼女を部屋へ送り届けてひとりになった自室で清司郎は考え込む。
 もう限界だった。
 今回はなんとかやり過ごすことができた。だがそれももう長くはもたないだろう。
 千春の唇、肌、吐息もなにもかもが、清司郎の理性をいとも簡単に溶かしてしまう。次に口づけて、また同じところで踏みとどまれる自信はまったくなかった。
 まだ時期尚早だというのはわかっている。
 彼女はようやく自分の足で歩きはじめたばかりだ。
 新しい目標と少しの達成感に胸を膨らませて。
 できればもう少し、穏やかにそのまま見守ってやりたかった。
 だが一方で、千春の方も清司郎からの愛を受け入れる準備が整いつつあるのでは?という淡い期待を抱いている自分がいるのも事実だった。

 さっきの彼女のもの言いたげな眼差しは……。

 清司郎は窓際に歩み寄りカーテンを開く。窓から見える夜の庭の向こう、明かりが消えた千春の部屋の窓をいつまでも見つめていた。
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