エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 八神総合病院は、心臓病の治療で国内最先端をいく大病院だ。
 広大で緑豊かな庭とつながる敷地内に、今目の前にいる清司郎の父で医院長の八神康二(やがみこうじ)の屋敷がある。
 昭和のはじめに建てられたというこの古い洋館を、千春は病院の窓からいつも眺めていた。だから千春にとってはここはよく知っている場所。
 でも自分自身がこの屋敷の中に入るのは、これがはじめてだった。
「今夜はこのまま入院だ」
 難しい表情で清司郎が言う。
 その言葉に、外を眺めていた千春はハッとして彼を見た。

「入院?」

「あぁ、安静が必要だからな」

「でも……!」

 千春は慌てて声をあげる。

「私、帰らなきゃ」

「帰る?」

 清司郎が眉を上げた。

「叔父さんに謝らなきゃ」

 さっきは驚いて、ほとんど反射的に逃げ出してきてしまった。
 結果とりあえず今日見合いをすることは回避できたけれど、今から考えるとすべて無意味なことだった。
 千春は叔父に逆らえない。
 それなのに今日はあろうことか彼の顔を潰してしまったのだ。帰ったら厳しく叱責されるに違いない。
 だったらなるべく早く帰るにこしたことはない。
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