エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 スマートな身のこなし、たくさんの人の輪の中心で歓談するその姿に、千春の頭がスッと冷える。将来への希望に膨らんでいた心もしぼんでゆくようだった。

 たしか彼は、パーティーは苦手だと言っていた。
 でも華やかな場所でも見劣りしない存在感と社交性は、十分に持ち合わせているようだ。
 パーティー開始からずっと一緒にいた千春が離れた途端、人の輪の中心にいるのだから。
 もちろんそれ自体はいいことなのだろう。康二も将来病院を継ぐなら、人との交流は必要だと言っていた。
 でも、彼を取り囲む人の中に少なくない若い女性が混じっているのに目を留めて千春の心はもやもやとする。
 彼女たちは皆、華やかで健康的、女性としての魅力に満ち溢れているように千春の目に映った。
 千春は唇を噛み、くるりと方向転換をして、会場を後にした。

 足速に建物の中に入り、廊下まで来て立ち止まり、千春は自分の腕を見つめる。
 手首までレースの袖があるクラシカルなデザインのこのドレスを千春はとても気に入った。
 小夜も素敵だと賛成してくれたが、流行りの形とはいえないのも事実だった。

 でもそれは仕方がないことだった。
 千春の腕や胸元には、長期に渡る入院とたくさんの手術の爪痕が残っていて、そこをカバーしてくれるデザインのドレスから選ぶしかなかったのだ。

 さっきの女性たちが着ていたのは、それとは真逆の胸元や肩が出たデザインの華やかなドレス。
 家で清司郎が着飾った千春見ても無反応だった理由が今わかった。
 彼女たちのような華やかでセクシーな女性を見慣れている彼は、千春のドレス姿などなんとも思わなかったのだろう。

 もしかしたら、こんな野暮ったい千春をパートナーとして連れて行くのは恥ずかしいと思ったのかも……。

 千春はかぶりを振って一生懸命によくない考えを振り切ろうとする。
 自分と清司郎に差があることは、とっくの昔にわかっていたことだ。今さら傷つく必要はない。
 そして少し頭を冷やそうと、人気のない場所を探してまた歩きだした。
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