エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
「ま、せいぜいそれまでは能天気に妻気取りでいてなさい。ふふふ、でも捨てられた後どうするのか身の振り方くらいは考えておいた方がいいわよ」

 そう言ってまだくすくす笑いながら、絢音はパーティー会場の方へ去っていった。
 取り残された千春は、足元がガラガラと崩れ落ちてゆくような音を聞きながら、その場に立ち尽くした。
 絢音が口にした能天気という言葉が今の自分にぴったりだった。
 清司郎に大切にされて、元気になったからといって浮れていた。
 彼が自分を大切にしてくれるのは、あくまでもキャリアを守るためだというのに。

 ……わかっていた。

 千春はギュッと目を閉じる。
 頬を一筋の雫が流れ落ちた。

 ……そんなことはじめから知っていた。

 でも今、こんなにも衝撃を受けるのは、千春自身その事実から無意識のうちに目を背け続けてきたからだろう。
 もしかしたら清司郎に女性として必要とされる日が来るかもしれないと、無謀な夢を見ていたから。

 清司郎に恋をして、ずっとずっと彼と一緒にいたいと願ってしまったから……。

 誰もいない廊下でひとり、千春は涙を流し続けた。
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