エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 べつにそれをどうと思ったことはなかったが、千春が話題に上るのは不愉快だった。
 あからさまに不機嫌になって黙り込む清司郎の背中を先輩医師がまたバシバシ叩いた。

「ははは、珍しいじゃないか、お前がそんな風になるなんて! どんなにかわいい彼女ができてもいっつも淡々としてたのに。随分変わったな」

「……そういう先輩はあいかわらずですね」

 清司郎はため息をついた。
 でも彼に言われたことは本当だった。

 医学部時代、清司郎は何人かの女性と付き合った。
 清司郎の人生において千春は常に特別だが、五歳も年下の彼女を女性として見ることに罪悪感を持っていた頃だ。
 妹だと思い込もうとして、同世代の女性と付き合った。それなりに楽しんだりもしたが、夢中にはならなかった。

 清司郎にとっていつも最優先だったのは千春を救うために優秀な医師になること。それだけだったから。

「ははは! 俺はいつも人生を謳歌しているんだ。思ったことはそのまま言うのがモットーだ。おい、後で奥さんを紹介してくれ。今の気持ちを伝えたい」

「……絶対に嫌です」

「でもさっき若い奴らが、パネルコーナーの奥さんをナンパしようとしてたのを阻止したのは俺だぞ? 感謝してくれないと」

「……本当ですか?」

「ああ、本当だ。お前の奥さんだから諦めろと言ったら残念がってたな。でも話してみるくらいいいじゃないですかとか言ってたから……あ、おいどこへ行く」

「すみません、ちょっと失礼します」

 清司郎はなおも話したそうにする先輩医師を振り切って、その場を後にする。
 千春を探して、建物の方へ向かった。
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