エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 清司郎は建物の中に入り手洗いの方へ向かう。
 行き交う人たちに抜かりなく視線を送りながら、足取りは自然と速くなっていく。
 ほんの少し姿が見えないからといって、こんなにも必死になって探すなんて、自分でもどうかしてると思う。でも千春に関してはいつもそうだった。

 彼女に関わることとなると、冷静ないつもの自分ではいられない。

 結婚して毎日顔を合わせるようになってからは、特にそうだった。

 ……今夜、彼女に本当の気持ちを告げようと清司郎は思っている。

 もう抑えられないと自覚したあの夜から一カ月、清司郎は彼女と意識して距離をとっていた。
 あまり家には帰らないようにして、ふたりきりになるのを避けたのだ。
 そうでもしないと父も小夜もいる自宅で、本能のままに襲いかかってしまいそうだった。
 今夜はホテルでふたりだけで一夜を過ごすことになっている。ゆっくり話ができる絶好の機会だった。
 まずは始まりから訂正しなくてはと清司郎は思っていた。
 千春との結婚を望んだのは自分のキャリアのためなどではない、ただ愛しているからだと、訂正をしなくては。
 そしてその上で、本当の妻になってほしいと、改めてプロポーズするのだ。

 迷いは、まだある。

 完全に回復したとは言えない彼女の心と身体を手に入れてしまうのだという罪悪感も。
 でもそのふたつの思いを清司郎は自身の中で懸命に打ち消した。

 自分は彼女を大切にする。
 誰よりも幸せにする。
 だからこれが正解だ。

 そんなことを考えながら清司郎は人気のない廊下を進む。
 その時。
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