エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
「ん……」

 千春が熱い息を漏らした。 

「せ……い……くん」

 うわ言を言う千春の額を清司郎は優しく撫でた。

「せいくん……」

「大丈夫だ、千春。そばにいるからな」

 清司郎は安心させるように語りかける。
 千春が苦しげにうわ言を繰り返した。

「ごめんなさい、清君。私……元気でいなくちゃいけないのに。それしか私にできることはないのに……」

「千春……」

 その言葉に清司郎の胸は締め付けられる。ベッドに放り出された白い手を握った。

「千春、大丈夫。元気になるよ。熱はすぐに下がるから」

「いや……! 捨てないで、清君」

 千春の目尻から雫が伝う。
 その涙に清司郎はハッとして、握る手を強張らせた。

「千春……」

 千春はなにかに怯えるように首を振り、またうわ言を繰り返す。

「……ちゃんとした奥さんになるから、お願い……。ここにいさせて……」

 清司郎は目尻から流れる涙を素手で拭いてやり、額を優しくなでる。

「千春、大丈夫、大丈夫だから。お前をどこへも行かせない」

 そう語りかけ、頭をしばらく撫でてやると、彼女は少し安心したように規則正しい寝息を立て始める。
 清司郎はホッとして白い手を布団の中に入れた。
 閉じた瞼をジッと見つめて、清司郎はため息をつく。

『捨てないで』

 千春の言葉が胸に突き刺さっていた。
 なぜ彼女がさっきキスを望んだのか、その理由がはっきりした。
 やはり千春は清司郎に負い目を感じている。
 医療費を負担してもらった以上形だけの妻だとしてもその役割を果たさなくてはならないと、思い込んでしまったのだ。
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