エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 あの日、清司郎が思わずしてしまったはじめてのキスによって。
 そしてそのあと、清司郎がしたことによって。
 彼女にとってこの家は少なくとも結城家よりは居心地のいい場所だ。
 康二とも小夜とも家族のように過ごしているし、病院ではサークルの仲間もできた。
 だから一生懸命その場所を守ろうとしている。

 さっきのキスは、そんな彼女の精一杯の処世術……。

『俺となにが違う?』

 夏彦の言葉が頭に浮かんだ。
 清司郎がしたことは、もちろんすべては千春のため。医療費を盾に彼女を縛ろうなどとは微塵も思っていなかった。
 でも少なくとも千春から見れば、夏彦となにも変わらなかったのだ。
 彼女は清司郎に見放されることに怯えて、一生懸命に妻の役割を果たそうとしている。
 清司郎はゆっくりと目を閉じた。

 ……やはり、気持ちを打ち明けるべきではない。

 彼女にとって、清司郎の愛は受け入れるしかない重い重い足枷だ。
 つらい病を克服して自分の足で人生を歩み始めた千春に、そのような負担を負わせたくなかった。
 清司郎は眠る彼女に語りかける。

「千春、お前が幸せになるためだったら、俺はどんなことでもする」

 それがたとえ自らの想いを殺すことだったとしても。
 汗ばむ額にかかった黒い髪を、清司郎は優しく撫でた。
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