エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 今日の散歩も小夜に用事があるなら、昼休み代わりに自分が付き添うと言ってくれた。診察が長引いていなければ、もうすぐ来るはずだ。
 でも千春の中の、恐怖心は消えなかった。
 どこかで、夢の中の言葉が彼の本心なのかもしれないと、疑っている自分がいる。
 彼の言動に神経を尖らせて、その片鱗を見てしまうことに怯えている。
 彼と別れたあとの身の振り方を考えなくては。
 最近の千春の頭の中はそのことでいっぱいだった。

「千春」

 呼びかけられて振り返ると、病院へ続く小道に白衣姿の清司郎が立っていた。

「遅くなってごめん、気分はどうだ?」

「……大丈夫よ」

 浮かない気分でぼんやりとしていた千春は、少し慌てて笑みを浮かべる。
 彼に、これ以上心配をかけたくはなかった。
 大丈夫と言ったのに、清司郎は千春のそばにやってきて、顔色を確認する。そして納得したように頷いた。

「体調はよさそうだな」

 ホッと息を吐く彼に千春の胸は切なくなる。
 本当に、本当に優しい人。
 大好きな彼のほんの少しの迷惑にもなりたくないと思うのに、今の千春はその真逆だ。

「もう餌はやったのか?」

 清司郎は池の方に視線をやる。
 鯉の餌やりだった。
 ここしばらくは康二がやっていたのだが今日からまた千春がやることになっている。
 千春は手にしている餌の袋を見て首を横に振った。

「まだ」

「やれよ。奴らが待ってる。……でも池に落ちるなよ」
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