エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
あの見合いの日。
見合い自体を断ることなどできないとわかっていながら千春がほとんど無意識のうちに逃げ出してしまったのは、相手が彼だと聞かされたからでもあると思う。
もしこれがまったく名前も聞いたこともない他の誰かだったとしたら、千春はその場にいたかもしれない。
いつか見合いをするだろうということは手術をする前から覚悟していたのだから。
見合い当日に逃げられた相手を前に、不自然なくらい満面の笑みを浮かべる夏彦に、千春はそんなことを考えた。
「元気そうだね。安心したよ」
「……ありがとうございます」
あたりさわりのない会話をしながら千春は視線をさまよわせた。偶然にでも清司郎が通りかかってくれないかと思いながら。
そんな千春に夏彦がにこにことしたまま、意外なことを言う。
「せっかく久しぶりに会えたんだ。少し話さない? そこの庭のベンチで」
「え? でも……」
千春は言い淀み、躊躇した。
直前で見合いをやめた者同士で、いったいなんの話をするのだろう。
少なくとも千春の方は話したいことなどなにもない。
すると夏彦が悲しそうに首を傾げた。
「お見合いがダメになったら、僕たちの間の友情までなくなっちゃうのかな?」
そうまで言われて、それでも嫌だとは言えなくて、千春はしぶしぶ頷いた。
「……わかりました」
「千春ちゃん、見違えるほど元気になったんだね」
夏彦はにこやかに話をしながら、千春の先を歩いていく。
八神病院の庭は、入院患者の散歩コースにできるほど広大だ。人気のない場所を目指すようにずんずん歩いていく夏彦に千春は恐る恐る声をかける。
「あの……どこまで?」
ほんの少し話をするだけならそんなに遠くまで行く必要はないはずだ。
入院患者がいつでも休憩できるように、ベンチはあちらこちらにある。
大林が振り返った。
「もう千春ちゃんは人妻なんだ。僕とふたりでいるところをあまり見られない方がいいだろう?」
見合い自体を断ることなどできないとわかっていながら千春がほとんど無意識のうちに逃げ出してしまったのは、相手が彼だと聞かされたからでもあると思う。
もしこれがまったく名前も聞いたこともない他の誰かだったとしたら、千春はその場にいたかもしれない。
いつか見合いをするだろうということは手術をする前から覚悟していたのだから。
見合い当日に逃げられた相手を前に、不自然なくらい満面の笑みを浮かべる夏彦に、千春はそんなことを考えた。
「元気そうだね。安心したよ」
「……ありがとうございます」
あたりさわりのない会話をしながら千春は視線をさまよわせた。偶然にでも清司郎が通りかかってくれないかと思いながら。
そんな千春に夏彦がにこにことしたまま、意外なことを言う。
「せっかく久しぶりに会えたんだ。少し話さない? そこの庭のベンチで」
「え? でも……」
千春は言い淀み、躊躇した。
直前で見合いをやめた者同士で、いったいなんの話をするのだろう。
少なくとも千春の方は話したいことなどなにもない。
すると夏彦が悲しそうに首を傾げた。
「お見合いがダメになったら、僕たちの間の友情までなくなっちゃうのかな?」
そうまで言われて、それでも嫌だとは言えなくて、千春はしぶしぶ頷いた。
「……わかりました」
「千春ちゃん、見違えるほど元気になったんだね」
夏彦はにこやかに話をしながら、千春の先を歩いていく。
八神病院の庭は、入院患者の散歩コースにできるほど広大だ。人気のない場所を目指すようにずんずん歩いていく夏彦に千春は恐る恐る声をかける。
「あの……どこまで?」
ほんの少し話をするだけならそんなに遠くまで行く必要はないはずだ。
入院患者がいつでも休憩できるように、ベンチはあちらこちらにある。
大林が振り返った。
「もう千春ちゃんは人妻なんだ。僕とふたりでいるところをあまり見られない方がいいだろう?」