エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 掴まれた腕はそのままに、千春は唇を噛む。
 その通りだった。
 今夏彦が言ったことは千春と清司郎が結婚を決めた夜に、彼本人の口から聞いた。
 なにも間違っていない。
 間違っていないけれど……。

「かわいそうに」

 夏彦が大袈裟にため息をついた。

「ずっと閉じ込められていたんだね。でも大丈夫、もう少しの辛抱だ。君の手術の成功が世間に知れ渡れば、奴は君への興味を失う。そしたら晴れて僕のお嫁さんになれるんだよ」

「え……」

 思いがけない話の展開に千春は掠れた声を漏らす。
 夏彦がにっこりとした。

「叔父さんとは話をつけてあるからね。僕は寛大だから過去は水に流してあげる。安心して実家にお戻り。そして改めて僕のところへおいで」

「そんな……!」

 千春は声をあげてぶんぶんと首を振った。

「そんなの勝手に決められたら困ります! 私……!」

「千春ちゃん、もうすぐ君は捨てられるんだ」

 言い聞かせるように夏彦は言う。ざらりとした声音に千春は言い知れぬ不快感を覚えた。

「叔父さんの話では八神は君の病状だけを心配していたそうだから。千春ちゃん。捨てられたら、君に行くあてはないだろう?」

 さも心配そうな夏彦に千春は胸の中にふつふつと怒りの感情が沸き起こるのを感じていた。
 確かに今の千春に行くあてなどない。でもだからといって実家に戻るつもりも、ましてや夏彦と改めて結婚するつもりもなかった。
 これから先、どうするのかを勝手に決められたくはない。
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