エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 あの日、夏彦にほんの少し触れられただけで、全身が泡立つような不快感に襲われた。
 よりによってその彼と千春は結婚しなくてはならないのだ。本当はそんなの絶対に嫌だった。
 でもその未来を受け入れなくてはならないなら、せめてはじめては清司郎にしてほしい。
 一度だけでも愛する人に抱かれたという思い出を胸に残したかったのだ。

「清君……!」

 清司郎の胸に飛び込んで彼の香りを感じとると、今の胸にある素直な想いを千春はそのまま口にした。

「清君、好き……」

「千春……?」

「清君、好き、好きなの。お願い……抱いて。私を本当の奥さんにして」

 今夜だけ……。

 千春はギュッと目を閉じて祈るような気持ちで清司郎の胸にしがみつく。
 いつも彼は千春がこうやって一生懸命お願いすれば、たいていのことは叶えてくれた。

 ずるいとはわかっている。でもこれが最後だから……!

「千春……!」

 名前を呼ばれて顔を上げると、そのまま唇を奪われた。
 熱くて深くて激しいキス。
 生まれてはじめての告白がどう彼に届いたのか、確認することもできないままに千春は彼に溺れてゆく。
 いつのまにか身体は力強い腕に包まれていた。
 甘い期待に混ざるほんの少しの罪悪感を一生懸命に打ち消して、千春は彼に縋りつく。
 上を向かされての激しいキスに無意識のうちに膝を折ると、ふわりと感じる浮遊感。
 抱き上げられて、彼の首に腕を回す。

「あ……清君……」

 愛おしいその人の名を口にすれば、熱い吐息が耳に直接、囁いた。

「千春、……俺のものだ」

 部屋の扉が閉まる音が、彼色に染まる千春の脳裏に甘く響いた。
< 149 / 193 >

この作品をシェア

pagetop