エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 わざと他人行儀にそう言って、千春は窓の外を見つめた。もうこの話はしたくなかった。
 千春の両親は千春が小さい頃にともに交通事故で亡くなった。
 だから千春は母親の兄である結城芳人の養子となり育てられたのだ。
 母の実家である結城家は国内最大手の製薬会社ユウキ製薬の創業者一族である。
 だからこそ天井知らずの千春にかかる医療費を難なく捻出できたわけだが、そこに家族としての温かい情は皆無だった。

『製薬会社の娘が、くだらん病気で死んだとなれば外聞が悪い』

『もし根治できたとしても、自由に生きられると思うなよ。結城家に身を捧げる覚悟でいろ。お前など政略結婚の駒くらいにしかならんが、それでも使い道はある。嫌なら今までかかった医療費を全額返済するんだな』

 いつもそう言われて生きてきた。
 もちろんまだ働いたことすらない千春に、膨大な医療費を返済することなどできるはずがない。
 だから意に沿わない見合いだろうがなんだろうが、叔父の言う通りにするしかない。

「千春……」

「もういいの。放っておいて」

 なおもなにかを言いかける清司郎に、千春はそう言って目を閉じる。
 清司郎はそんな千春をしばらく黙って見つめていたが、やがて立ち上がり部屋を出て行った。
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