エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
奪還

結城家

 整然と並ぶ常緑の木々が、芝生に影を落としている。
 余計なものはなにもないその庭をベンチに座って見つめながら、千春はそれを心からつまらないと思った。

 今頃、同じように秋を迎えている八神家の庭では、いろは紅葉が真っ赤に染まり、病院へ続く小道を鮮やかに染めているに違いない。
 他の木々の葉っぱもその役割を終えて地面に積もり、カサコソと鳴って歩く人の耳を楽しませるのだ。
 池の鯉たちは……でもそこまで思い浮かべて千春は考えるの止める。

 これ以上は、つらくなるだけだった。
 その時。

「千春さま」

 厳しい声が千春を呼ぶ。
 少し離れた場所で千春を監視するように立っている澤田だった。

「そろそろ中へ入ってください。さっき旦那さまから千春さまに話があると連絡がありましたから。もうまもなく戻られるはずです」

 千春はため息をついた。

「まだ庭へ出て数分も経っていないわ」

「お身体に触りますよ!」

 千春の体調など本当はどうでもいいくせに、まるで心配しているかのようなことを言う澤田に、千春はまたため息をつく。

「手術は成功したのよ。もう外出だってできるんだから。部屋に閉じこもってばかりだったら却って身体によくないわ。病院へ行かなくちゃいけなくなるかも」

 わざと"病院"の部分を強調してそう言うと澤田はぐっと言葉に詰まり、そのまま黙る。
 そして向こうを向いて「戻ってきてから口答えばかり」と吐き捨てるように言った。
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