エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 千春が結城の家に戻って一カ月が過ぎた。
 清司郎と千春がはじめて一緒に過ごした夜が明けた次の日の早朝、千春は隣で眠る清司郎を残して八神の家を出た。
 自分の欄を記入した離婚届を残して。
 それからはここ結城家でほとんど幽閉されているような生活を送っている。
 一日二回こうやって庭を散歩する以外は外へも出させてもらえない。
 叔父はもう絶対に千春を逃がさないと決めているようだ。
 でもべつにそうされなくても千春に逃げるつもりはまったくない。
 覚悟を決めて、戻ってきたのだから。
 胸に大切なお守りのような思い出を抱いて。

「千春」

 今度は別の誰かに呼ばれて、千春は振り返る。
 叔父の芳人だった。
 厳しい表情でこちらへやってくる。
 千春はベンチに座ったまま、彼を待った。

「こんなところにいたのか」

 忌々しそうに舌打ちをする。

「午後の散歩です」

 無表情で千春は応えた。

「なにかご用ですか」

「お前の結納が決まった。来週末だ」

 千春は息を呑む。
 覚悟してはいても手が震えた。

「だがお前の離婚届がまだ出てない。どういうことだ。お前、ちゃんと話をつけてきたんだろうな」

 叔父が苛立ったように千春に問いかける。
 千春は首を傾げた。

「さぁ、離婚届は置いてきました。それ以外はなんとも」
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