エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 絢音が驚いたようにその手を見つめる。でもすぐに満面の笑みを浮かべて頷いた。

「はい! 私、今すぐに父に伝えます」

 そう言って、携帯を探すべく鞄の中に手を入れる。でもすぐに「あ」と言って手を止めて、残念そうに清司郎を見た。

「清司郎さん、ダメです。今日は土曜日ですが、父は用事があって家にはいないはずです……」

「用事?」

「そうなんです……。残念だわ。もう……いつも千春が私の邪魔をするんだから」

 清司郎は眉を上げた。
 絢音はなにやら考えながらぶつぶつと言う。

「ああでもそうだわ、夜なら……。そうね、ちょうどいいのかも。あっちもやり直しているんだもの……」

 彼女の口から出た"千春"の名前に早る気持ちを抑えつつ清司郎は握った手にギュッと力を込める。
 すると絢音は嬉しそうに清司郎を見つめて、また事情を話し始めた。

「実は今日、千春と大林さんの結納なんです。午前中って言ってたからもう始まる頃だと思います。だから今から帰っても父はいないんです。携帯もつながるかどうか……」

 絢音の口から出た許しがたい内容に清司郎は胸は怒りの感情でいっぱいになる。結納だと? ふざけるなと叫び出しそうになるのをどうにかこうにか呑み込んだ。

「なるほど……じゃあ戻られるのを待つしかないかな。……場所は遠い?」

 全神経を集中させて、清司郎は優しく、普段よりも親しげに問いかける。
 絢音がうっとりと清司郎を見つめてから、口を開いた。
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