エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
「式はあとでもかまいません。ですが籍を先に入れて結婚生活を始めてしまいたいです」

 夏彦の口から出た"結婚生活"という言葉に、千春の背中がぞくりとする。

「お前その積極性を仕事でも出せ。ははは」

 大輔が愉快そうに笑い、芳人がやや引きつったような笑みを浮かべた、その時。

「そんなことは絶対にさせない!」

 鋭い声と同時に入口の襖がバンと開き、背の高い男性が現れた。

「こんな茶番は、今すぐにお終いだ」

 唖然とする一同を睨みつけ、言い放つその人物に、千春をはじめその場にいた誰もが目を剥いた。
 清司郎だ。
 白衣姿でネームプレートもつけたまま、まるで病院から直接来たような格好だ。
 清司郎はつかつかと部屋の中へやってきて千春を立ち上がらせて抱き寄せる。
 そして宣言した。

「千春は私の妻です。勝手な真似はやめていただきたい。行くぞ、千春」

「せ、清君!」

 久しぶりに感じる彼の香りと手の温もりに唖然としながらも千春の胸は切なくなる。
 でも素直に従うわけにはいかなった。

「ま、待って……!」

 そこで大輔が反応した。

「な、なんなんだ君はっ! 人の結納の席にいきなりやってきて。いったいどういうつもりだっ!」

「八神病院の八神清司郎だよ。父さん」
 夏彦が立ち上がり、憎悪の目で清司郎を睨みつけた。

「前回の見合いの邪魔をした男だ」

「なに⁉︎ ……この男が」

 大輔が清司郎の頭の先から足元までを、細い目をもっと細くしてジロジロ見る。
 その様子に、千春は血の気が引いてゆくような心地がして、無意識のうちに清司郎の白衣を握りしめた。

「なるほど。……君があの八神医師か。ふむ、なるほど。前回のことといい、結城君のお嬢さんを諦められないんだな。だが八神君、君は私が誰かわかっているのかね? 誰を相手にこんなことをしているのか」
< 160 / 193 >

この作品をシェア

pagetop