エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 大輔が清司郎を威圧するように言う。
 清司郎が、平然として頷いた。

「大林先生、よくわかっております。先生こそ、なにをされているのかわかっておいでですか? 千春は私の妻です。結城社長からどう聞いていらっしゃるかは知りませんが、私たちは正真正銘の夫婦だ。その千春を息子さんの妻になど、許されることじゃない」

 ふたりはまだ夫婦だと言い切った清司郎の言葉に、大輔が、芳人をじろりと睨んだ。

「……結城君? どういうことだね」

「り、離婚調停中だっ! こちらは離婚届に判を押したっ!」

 芳人が清司郎に向かってあわあわと言う。
 それを、清司郎はチラリと見て黙殺した。
 大輔がため息をついた。

「八神君、君の話は以前からよく聞いているよ。非常に優秀だそうじゃないか。心臓病の分野では右に出る者はいないとか。この間の八神病院の発表は日本の医学会に新たな希望をもたらした。その功績を台無しにするような行動は慎むべきではないかね? 君だってこんなことで医者としての未来を潰したくはないだろう」

 清司郎を諭すように大輔は言う。
 そして狡猾な目で清司郎を見た。

「……今ならまだ間に合う。見なかったことにしてやろう。人間誰しも血迷うことはあるからな。だから、今すぐに出ていきなさい」

 千春は震える手で清司郎の白衣を引っ張った。

「清君、お願い。私は大丈夫だから……!」

 清司郎が千春を振り返って確認した。

「お前が家を出た理由は、これだな」

「八神! 今すぐに出ていけ! じゃないとお前はもう外科医を続けられなくなるんだぞ!」

 大輔の隣で夏彦がわめいた。
 父親の威厳の傘の下で勝ち誇ったようにしている。
 清司郎は心底軽蔑した目で彼を見て、平然と言い放った。

「どうぞお好きに」

「…………はっ?」

 夏彦が間抜けな声をもらした。

「俺が心臓外科医になったのは千春の命を救うためだ。もう目標は達成した。あとは煮るなり焼くなりお好きにどうぞ。行くぞ千春」

「せ、清君⁉︎」

 清司郎の言葉に夏彦同様、千春も驚愕する。

「ダ、ダメよ!」

 さっさと結論を出して立ち去ろうとする清司郎をわけがわからないままに、一生懸命引き留めた。
< 161 / 193 >

この作品をシェア

pagetop