エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
「清君はお医者さまでいなくちゃ、わ、私なんかのためにやめちゃダメ……」

「千春」

 清司郎が千春の肩を掴んだ。

「医者なんてどこでだってやれるんだ。べつに大病院じゃなくても日本中に患者はいるんだから。俺は千春とならどこに行ってもいい。お前と一緒にいられるならなんだってかまわないんだ」

「清君……」

 強い言葉と、自分を見つめる真摯な眼差しに、千春は目を見開いた。
 清司郎は千春と一緒にいるために、日本一の心臓外科医の座を捨てるという。
 ではあの夜に彼が千春にくれた言葉は、本当だったということか。
 あの夜、彼がくれたたくさんの愛の言葉。仮初の妻にくれた仮初の言葉たちが、千春の胸の中で今真実に変わってゆく。

「清君、……本当に?」

 震える声で問いかけると、彼は力強く頷いた。

「ああ、本当だ。行こう、千春」

 彼と一緒に生きていく。
 なにもかもを放棄して。

 そんなことをしたら、きっと大変なことになるだろう。大林親子も叔父も絶対にそうはさせないという目でこちらを睨みつけている。
 怖くないといったら嘘になる。
 でもどうしても彼についていきたいと千春の心が言っている。
 こうやってなりふりかまわず千春を救いに来てくれた彼と一緒に、これからの人生を生きていきたい。

「私、一緒に行く」

 思いを込めて頷けば、清司郎が安心したように微笑んだ。
 でもその時。

「そうはさせない!」

 ふたりのやり取りを夏彦が遮った。

「なにが一緒に行くだ! 絶対に許さないからな! 千春は俺のものだ! 横取りするな‼︎」

 地団駄を踏み赤い顔をして千春を取り戻そうと手を伸ばす。

「そうだ勝手な真似は許さん。こっちへ来なさい! 千春!」

 芳人も血相を変えて声をあげた。

 ——そこへ。

「だ、旦那さまっ‼︎」
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