エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 彼の怒りが、想いが、千春の胸を貫いた。

「俺は……! 俺はお前が、望むならどんなこともしてやる。なんだって叶えてやる。お前のためなら、なにを捨てても惜しくないんだ! お前が望むなら……!」

 その彼の姿に、たくさんの思い出が千春の頭を駆け巡った。

 そうだ。
 彼はいつもそうだった。
 はじめて会ったあの日からずっとずっとそうだった。
 はじめて会ったあの夏の日、彼は千春に九九カードをくれたのだ。絢音に取り上げられて、周りの誰に頼んでも手に入れられなかった九九カードを。
 学校どころか勉強も必要ないと言われていた千春に、ただひとり勉強を教えてくれた。
 大好きな本をたくさん持って来てくれた。
 そしてなにより、今の日本では治せないと言われた千春の病気に、たったひとり立ち向かい千春に未来をくれたのだ。
 それはきっと愛よりも、もっとずっと深いもの……。
 千春の胸が後悔でいっぱいになってゆく。
 彼を思いやることなく、彼の愛に気付かずにひとりで結論を出した自分はなんて愚かなのだろう。
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