エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 火照る頬を持て余したまま千春は言う。
 起きてから今までの清司郎の振る舞いに、少し戸惑っていた。
 今までの彼のポーカーフェイスな部分はいったいどこへいってしまったのか。少し過保護なところはそのままに、千春への独占欲を少しも隠そうとしていない。
 清司郎がにっこりとした。

「元の俺がこれだ。もう隠す必要はないからな。これからはずっとこれでいく。今さら嫌だと言っても逃がさないから」

 そんなことを言う清司郎に、千春は思わず噴き出して、くすくすと笑い出してしまう。

「ふふふ、べつに逃げないけど」

 開き直る彼がおかしかった。
 でもそこであることに思いあたり笑いを引っ込める。そして少し考えてから口を開いた。

「ねえ、清君」

「ん?」

「清君は、随分前から私のことを、その……想ってくれていたんでしょう? それを……言おうと思ったことはなかったの?」

 彼は千春の命を救うために心臓外科医になったのだと言い切った。その言葉を疑ったりはしないけれど、ひとつだけ疑問に思うのがそこだった。
 どうして彼はずっと黙っていたのだろう。
 言う機会などたくさんあっただろうに。
 すると清司郎は、少し悲しい眼差しを千春に向ける。そして静かに口を開いた。

「それが……千春にとっていいことなのかが、俺にはわからなかったからだ」

 清司郎はそう言って、腕にギュッと力を込める。千春はその腕に抱かれたまま、彼の話に耳を傾けた。

「手術を成功させるということは俺にとっても最初の頃は雲を掴むような話だった。俺の気持ちを打ち明けて、もし恋人同士になれたとしても、もしかしたらそれが却ってお前を苦しめることになるのかもしれないと思ったら、どうしても言えなかったんだよ」

「清君……」

 千春は呟く。
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