エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
「このままでいいはずがない。好きでもない男と結婚をするために、つらくて苦しい手術を乗り越えたわけじゃないだろう?」

「……」

 千春は唇を噛んで、シーツを握りしめた。
 傷ついて、まだ血が出ているところを直接触られたような気分だった。
 放っておいてと言ったのに、どうして彼はまたこの話を蒸し返すのだろう。

「千春?」

 千春だって長い闘病の先に明るいなにかを見ていた時もある。
 元気なって、好きなことをして。
 でも現実がその前に立ちはだかり、明るい光をすべて覆い尽くしてしまったのだ。
 今はもう千春の前に光はない。

「清君には関係ないでしょう」

 声を振り絞ってようやく千春はそれだけを言う。

「関係ある、俺は……」

「ないわ!」

 千春は彼の言葉を遮った。
 なにもできないくせに、理想ばかり押し付けないでほしいという怒りにも似た気持ちが胸の中でふつふつと沸き起こるのを感じていた。
 けっして手に入らないものに恋焦がれることがどれだけつらいことか彼はわかっているのだろうか。
「じゃあ清君、私にかかった医療費をすべて返せる方法知ってる? 知らないでしょう? でもそれができなきゃ、叔父さんの言う通りの結婚をするしかないのよ。このままで、いいも悪いもないの! 私にはこれしかないの!」

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