エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 必然的に庭を削らなければならなかったのだ。
 もともと植えてあった植物には極力を手を加えなくていいように裏庭に向けて広げるように設計してもらったが、それでも大きなコナラの木を一本切らなくてはいけなかった。
 康二が、はははと笑って首を横に振った。

「清司郎はともかく千春ちゃんがいなくなるのは、俺も小夜さんも寂しかったからな。庭が少し狭くなるくらいかまわんよ」

 その言葉に、千春の胸が温かくなった。
 あの結納の日、叔父が逮捕されてから、医学会に大きな影響力を持っていた結城家は事実上解体した。
 押しかけるマスコミから逃げるように叔母も絢音もどこかへ身を隠し、建物はあるものの、そこには誰も住んでいない。叔父の裁判はこれからだが、それでももはや元に戻ることはないだろう。
 いい思い出のない場所だとはいえ、千春は実家を失ったのだ。
 でもこうやって、入れ替わるようにして新しい家族が受け入れてくれたことがただありがたくて、嬉しかった。

「もうすぐ建物はできそうだが、肝心の清司郎は、しばらくはまともに帰れそうにないな」

 康二が出来上がりかけの建物を見ながら言う。

 その言葉に、千春はため息をついた。

「本当ですね……」

 清司郎はあいかわらず、忙しい日々が続いている。
 彼が成し遂げた手術成功に関して医学会や世間の関心は高い。
 講演会や講習会、それからオペの依頼はひっきりなしだ。
 それに加えて八神病院での通常の診察も手を抜くなと康二に厳命されているから、ここしばらくはまともに休みを取れていなかった。
 千春と同じ病気を抱える患者にとって、彼は希望そのもの。
 だからそれは仕方がないとしてもやっぱり妻としては、忙しくする彼の身体が心配だった。

「少しは休まないと、倒れちゃう」
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