エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 康二が少し真面目な表情になった。

「千春ちゃん、外科医はその生涯で数えきれないくらいオペをするが、自分の家族のオペをすることはあまりない。医者と言っても人間だからね。そのオペが難しければ難しいほど冷静ではいられない。普通は知り合いの医師にお願いするんだよ」

 その言葉に、千春はこくんと頷いた。
 いくら慣れた手術でも愛する人の身体にメスを入れるという行為は、余程のことがない限りしたくないに違いない。康二の話は納得だった。

「私が、清司郎が千春ちゃんを好きだということに気が付いたのは、あいつが千春ちゃんを連れて帰ってきた日だが、随分前から想っていたのだろう。思い返してみれば千春ちゃんの病気に対するあいつの意欲は普通ではなかったからな」

 康二はそこで一旦言葉を切り、少し長いため息をつく。
 そして続きの言葉を口にした。

「……だとしたら、あいつはいったいどんな気持ちで手術に挑んだのだろうと今さらながら思うよ。同じ外科医として考えると、……想像を絶する行為だ」

 尊敬する元主治医の言葉に、千春は胸を突かれたような心地がして、なにも言えなくなってしまう。

 想像を絶する行為。

 千春の手術を清司郎が担当したこと。それは千春をずっと診てくれた康二にそう言わしめるほどのことだったのだ。

「千春ちゃんの手術は十分に成功する見込みがある手術だった。だがそれでも日本でははじめての例だったんだ。あのレベルの手術を身内に……愛する相手に施した外科医を私は知らない……」

 康二がなにかを思い出すような少し遠い目をして、小さく首を振った。

「知っていたら、俺は清司郎を止めたかもしらん。もし千春ちゃんに万が一のことがあったら、おそらく清司郎はもう二度とメスを持てなくなっていただろう。外科医として潰れてしまっていた」

 愛する人の手術に挑み、万が一のことがあったら……想像するだけで胸がつぶれそうな話だが、清司郎はたったひとりでそれを乗り越えた。

 千春のために。
 ふたりの未来のために。
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