エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 ざわざわと活気がある八神総合病院の廊下を千春は意気揚々と歩いている。
 腕にたくさんの本が入った袋を抱えていた。
 エレベーターで七階に上がり、談話室を目指す。八神総合病棟の最上階にある談話室はカフェテリアのように明るくて、入院患者や見舞いに来た人たち休憩中の職員の憩いの場所になっている。
 そこへ到着し中をぐるりと見回して、千春は窓際に座る女の子に目を留めて呼びかけた。

「ユキちゃん!」

 女の子が嬉しそうに手を上げた。

「千春ちゃん!」 

 千春はユキの前のテーブルに抱えている本をドサッと置く。ユキが目を輝かせた。

「王女さまシリーズあった?」

「あったよ。でもやっぱり人気だから四巻はなかったの。予約しておいたから、借りられたらまた持ってくるね」

「うん」

 千春が持ってきた図書館の本の数々を嬉しそうに手に取ってユキが頷いた。
 隣で彼女の母親が「いつもすみません」と頭を下げる。
 千春はそれに笑顔で応えた。

「いえ、私もユキちゃんの本を選ぶのが楽しくてたまらないんです」

 叔父の事件で大騒ぎだった世間が少し落ち着いて、千春が読み聞かせの会に復帰してからしばらくがたった。
 千春自身子供たちの前で絵本を読むということにも随分と慣れて、今や大学生の真矢と千春は人気のコンビと言われるまでになった。すっかりサークルに馴染んでいる。
 そしてその読み聞かせボランティアいないいないばあは、最近活動の幅を少し広げることになった。
 そのひとつがユキのように長期入院をしている子たちが読むための本を、図書館に代わりに借りにいくという取り組みだ。
 これが大好評でひっきりなしに声がかかる。千春は真矢とともに忙しい日々を送っていた。
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