エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 意外すぎるその言葉に千春は掠れた声を漏らす。
 いったい彼がなにを言ったのか、その意味をすぐには理解することができなかった。

「お前はあの家を出た方がいい」

 一方的な清司郎の言葉に、千春の頭がチリチリと痺れた。
 感じるのは爆発しそうな怒りだった。
 あの家を出て生きていけるならどんなにいいかと千春だって何度何度も思い描いた。
 元気になって、好きなことをして。
 誰にも罵られたりせずに自由に生きていきたい。
 でもそれは絶対にありえない未来なのだ。
 その話は昨日すでにしたはずなのに、彼はまたくだらない理想を押し付けて千春を苦しめようとしている。
 清司郎が苦しげに口を開く。

「千春、お前が望むなら俺は……!」

「望まないわ」

 彼の言葉を千春は冷たく遮った。

「家を出たいなんて思わない」

 たしかに、今日一日を過ごしたこの家は千春にとって安心できる場所だった。
 でもあの家を出て、しばらくここにいたとして、それはなんの解決にもならない。
 ただ少しだけ、期限が延びるだけなのだ。
 千春にかかった膨大な医療費はどうやったって支払えないのだから。

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