エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 清司郎がやや大袈裟に、顔をしかめた。

「子猫を産むと厄介だぞ。去年母猫が育てられなくてどこかに行ってしまったんだ。それで小夜さんが世話をして引き取り手を……」

「え? お世話を⁉︎」

 千春は我慢できずにまた声をあげた。子猫の世話だなんて羨ましすぎる。
 そんな千春に、清司郎が一瞬笑みを漏らす。
 でもすぐにまた顔をしかめて、真面目な表情で口を開いた。

「もし今年も同じことがあったら、責任をとって千春にも手伝ってもらうからな」

 もう千春の頭は、子猫のことでいっぱいだった。
 いったいこの庭のどの辺りで子猫は産まれたのだろう。
 後で小夜に聞いてみようか。
 明日の散歩の時にはその辺りをよく見て回って……ああでも真面目に散歩したら、猫は庭に寄り付かなくなってしまう。
 もちろんそれでいいんだけど……。
 庭のあちこちを見回しながらそんなことを考えていると、隣で清司郎が噴きだした。

「? なに? 清君」

 肩を揺らしてくっくと笑い続ける清司郎に、千春は首を傾げる。

「いやべつに」

 清司郎が目を細めて大きな手で千春の頭をポンポンとした。

「頼りにしてるよ」

 その感触と優しげな眼差しに、千春の胸が温かくなる。
 とても自分のキャリアのために千春に結婚を要求した人と同一人物とは思えなかった。

「千春さん、そろそろ中に入りましょう。風が冷たくなってきました」

 ポーチから小夜が呼ぶ声がする。
 清司郎が振り返ってそれに応えた。

「今行きます」

 そしてまた千春を見る。

「じゃ、俺は午後の診察があるから。夕食もちゃんと食べるんだぞ。残したら、明日の散歩はなしだからな」

 千春は頷いて、小夜がいるポーチへ向かった。
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