エリート心臓外科医の囲われ花嫁～今宵も独占愛で乱される～

　九九を全部言えた時の千春の嬉しそうな笑顔が頭に浮かんで、清司郎の胸は締め付けられた。

『俺は行けん。病院を放っておくわけにはいかないからな。だがもちろんその時に優秀な医師がうちの病院にいたら、留学をさせるつもりではある』

　その父の言葉に、清司郎はハッとする。
　清司郎が自分の中に将来への道筋をはっきりと見た瞬間だった。
　八神総合病院は曽祖父の時代からこの街にあって、地元の人に親しまれていた。必然的にこの辺りでは清司郎は少し有名人なのだ。どこへ行っても＂八神先生のとこの跡取り息子＂と言われてきた。
　医者になるのがあたりまえ、外科医になるのが当然だと常に言われ続ける生活は正直言って窮屈だ。
　自分の人生は自分で決めると反発心を抱くことも多かった。
　でも父の話を聞いたその瞬間、清司郎の中からそんな思いは綺麗さっぱりなくなった。
　医療は日々進歩している。千春の病気の治療法はいつか見つかるだろう。ならばそれを学ぶに足る医師に自分自身がなればいい。そうすれば千春は長く生きられるのだから。