エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 ズラリと並ぶ名作に千春は夢中になってしまう。清司郎がくすりと笑って、千春が見やすいように画面をゆっくりスクロールさせた。

「すごいね、古い本もこうやって簡単に手に入るんだ」

 少しはしゃいでそう言いながら顔を上げると、すぐ近くに清司郎の視線がある。

「あ」

 千春は目をパチパチさせて口を噤んだ。
 本を見たいと思うあまり、いつのまにか清司郎との距離がぐんと近くなっていたことに気が付かなかった。
 ふわりと感じる男性的なスパイシーな香りに、千春の頬が熱くなる。
 清司郎が千春から目を逸らして咳払いをした。 

「じゃあ、十五巻以外を買っておくよ」

 少し掠れた声で言う。

「あ、ありがとう……」

 うつむきながら答えると、胸の鼓動がドキンドキンと大きな音を立て始める。
 千春は思わず胸元に手をあてた。
 その仕草に清司郎が反応する。

「千春? 胸が苦しいのか?」

 千春はうつむいたまま、首を横に振る。
 パジャマの上から手で抑えても、ドキンドキンと鳴る鼓動は治らなかった。
 物心がついた時から千春はいつも心臓の音に耳を傾けながら生きてきた。
 痛くないか、苦しくないか、嫌なリズムで刻んでいないか。自ずとどんな感じなら医者に告げるべきかくらいはわかるようになるものだ。
 これくらいなら大丈夫。
 これはナースコールをした方がいい。
 でも今感じるこのリズムは、そのどれとも違っている。
 これは……。

「千春?」
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