エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
「うちの小児病棟で読み聞かせのボランティアをしてくださっている倉橋(くらはし)さんだよ」

「『いないいないばぁ』っていうサークルなの」

 倉橋が鞄の中からサークルのチラシを取り出して、千春に差し出した。

「今日も図書館で読み聞かせの会があったのよ。病院の方は、明日行かせていただくわ」

「そうなんですね。いつもありがとうございます」

 ふたりの会話を聞きながら千春はチラシに目を通す。
 このサークル名には見覚えがあった。

「私……知ってる」

 思わずそう口にすると、ふたりが会話をやめて千春を見る。
 千春は頬を染めた。

「あ、いえ……その、私この前まで八神病院に入院していたんです。子供の頃からずっと。いないいないばぁの読み聞かせは掲示板で見たことがあります。病気で外に出られない子たちに絵本を読んであげるんですよね」

 つっかえながらそういうと、女性が嬉しそうに微笑んだ。

「そう。サークルのメンバーが交代でね。もう長いから、ほとんどは私みたいなおばあちゃんになっちゃったんだけど、最近は少しずつ若い方も入ってくれるようになったのよ。短大の保育科の子たちなんかが」

「若い人も……」

 呟いて千春はオレンジ色のチラシをジッと見つめる。
 するとそんな千春を倉橋がにこにこしながら見つめてから、清司郎に向かって問いかけた。

「ふふふ、先生、彼女?」

「え? ……あ、いや……」

 不意を突かれた質問に、清司郎が言い淀む。
 しばらくどう答えようか迷ってから、仕方ないというように口を開いた。

「……妻です」

「え、先生ご結婚されていたんですか⁉︎」

 倉橋が大きな声をあげる。
 清司郎が気まずそうに視線を逸らした。

「ええ、まぁ……つい最近ですけど」
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