エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 彼の部屋のドアの前で、千春は立ち止まり小さく深呼吸をする。そして思い切ってノックした。

「清君、ちょっといい? 話があるの」

 すると中で、ガタンとなにかが落ちる音。
 ややあってドアがゆっくりと開き、清司郎が顔を出した。

「音がしたけど大丈夫?」

 千春は彼に問いかける。

「……うん」

 清司郎が気まずそうに目を逸らした。

「それよりどうかしたのか。話ってなに?」

 彼にしては少し性急なその問いかけに、千春は少しためらった。
 彼のこの態度。
 夜遅くに部屋へ来るなんて迷惑だと思われたのだろう。さらにいうと、これから千春が話す内容も彼からしたら受け入れられないことかもしれないし……。
 千春はうつむいて黙り込む。
 清司郎が気を取り直したように口を開いた。

「まぁ、とりあえず……どうぞ」

 促されて千春は彼の部屋へ足を踏み入れる。
 はじめて入る彼の部屋。
 千春の部屋と同じくらいの広さのその部屋に、家具はデスクとベッドだけ。その辺りに無造作にたくさんの書物が積み上げられていた。千春と違って、彼は普段はあまり本を読まないから、ほとんどが仕事のためのものだろう。
 彼が若くして病院のトップ外科医となれたのはこういった努力の積み重ねがあるからなのだ。
「その辺に座ってて」と言って清司郎はデスクのパソコンをシャットダウンさせている。
 足の踏み場もないというほどではないが、他に適当な場所も見あたらなくて、千春はベッドの上に腰を下ろした。
 清司郎が振り返り、ベッドに座る千春を見て少し驚いたよう動きを止めた。
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