エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 読み聞かせのボランティアに参加したい、その気持ちは日に日に大きくなる一方だ。でもやりたいことと、やるべきことはまた別だというのもわかっている。常識で考えたら、ボランティアは自分自身に余裕がある人がするものだ。
 清司郎が眉を上げた。

「どういうことだ?」

「だって私……、本当なら早く働いて清君にお金を返さなきゃいけないのに……」

 千春は蚊の鳴くような声で言って、膝の上に置いた手をギュッと握りしめる。

「千春」

 清司郎がため息をついた。

「俺は千春に治療費を返してもらおうなんて思っていないよ」

 それに千春は反論する。

「そういうわけにはいかないわ!」

 当初の予想に反して清司郎とこの家の人たちには、とてもよくしてもらっている。それはもちろん嬉しいが、同時に複雑でもあった。
 千春にかかった治療費は、善意だけで受け取っていい金額ではない。

「私、何年かかっても返すつもりよ。……だから本当はボランティアじゃなくてアルバイトかなにかをするべきなの。それはわかっているんだけど……」

 清司郎が眉間にシワを寄せる。そして迷うように一旦唇を噛んでから口を開いた。

「俺があのお金と引き換えにしたのは、お前の健康だ。それ以外はなにもいらない」

「でも……」

「なにもいらないんだ、千春」

 清司郎が千春の肩を掴み優しく揺さぶった。
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