エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
「……?」

 千春は首を傾げて視線を上げる。
 頬の温もりは、清司郎の右手だった。
 鼓動が、とくんとくんとあのリズムを奏ではじめる。

「清君……?」

 清司郎がなにかをこらえるように眉間にシワを寄せた。
 少し硬い頬の温もりに、千春の神経は集中する。触れられているのはそこだけのはずなのに、身体のあちこちに明かりが灯っていくような心地がした。
 視線は、彼から離すことができなかった。
 すぐ近くに感じるスパイシーな彼の香り。
 なにかを含んだその眼差し。
 こんな彼は、はじめてだ。
 ただ優しいだけではない、そう感じるのは千春の思い違いだろうか。
 甘いなにかに囚われて、千春は微動だにできなくなる。吸い寄せられるように目の前の瞳を見つめ返せば、ゆっくりと近づく彼の吐息。
 瞼を閉じて、それを待つ。
 唇に、ふわりと触れる感触に、千春の脳が甘く痺れる。その刹那、ある想いが全身を駆け巡る。
 彼が好き。
 大好き。
 生まれてはじめてのキス、その瞬間に封じ込めていた初恋がまた息を吹き返した。
 スピードを上げる胸の鼓動、触れられた頬と唇、そして心。千春のすべてが彼に恋焦がれている。
 そのことをはっきりと自覚して、千春はゆっくりと目を開く。
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