エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 清司郎の言葉に、千春は頷いた。
 今日はちょうど、倉橋のサークルいないいないばぁの読み聞かせの会が小児病棟である。千春はこのあと見学に行くことになっている。

「遅くならないようにするんだぞ」

 子供相手に言うような言葉を口にする清司郎に千春はまた頷いて診察室をあとにした。
 廊下に出てドアを閉めると、胸に手をあててほーと長い息を吐く。
 ドキンドキンの鳴る心臓の音はまだ治らなかった。
 それにしても、どうして彼はあんなにも平然としていられるのだろう。
 千春の方は、診察中ずっと心臓が鳴りっぱなしだったというのに。
 でもそういえば、と千春は思う。自分は清司郎のことをあまりよく知らない。特に交友関係についてはまったくだった。
 千春にキスをしておいて、あんなにいつも通りということは、おそらく彼にとってはなんでもないことなのだろう。女性経験はそれなりにあるということか。
 そんなことが頭に浮かんで、千春の胸がチクリと痛んだ。
 千春はまたため息をついて、廊下を歩きだした。
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