エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~

清司郎の戸惑い2

 診察室のドアが閉まったその瞬間、背後から忍び笑いが聞こえて清司郎は振り返る。
 心臓外科の女性看護師がこらえきれないというようにくすくすと笑っていた。
 清司郎がジロリと睨むと、彼女は口を開いた。

「先生がご結婚されたという噂は本当だったんですね。ふふふ、おめでとうございます」

「……ありがとうございます」

「ふふふ、"遅くならないように"なんてお優しいんですね。ご心配なのも無理はないと思いますが」

 からかうようなその言葉に、清司郎は憮然としてマウスをカチカチさせた。
 ずっとこの病棟に入院していて、しかもユウキ製薬の創業者一族である千春はここでは知られた顔なのだ。
 その千春と清司郎が結婚していたという話は、もはや院内の誰もが知るところとなってしまった。
 まず倉橋が、清司郎が元入院患者と結婚していたということを小児病棟で喋り、小児科の先輩医師を通じて、清司郎に"お尋ね"があったのだ。それに清司郎がしぶしぶ答えたところ、あっというまに広まってしまったのである。
 本来であれば、隠す必要などない結婚という事実を、清司郎が積極的に言わなかったのは、やはり普通とは違う結婚だからだ。
 もちろん結婚したこと自体は正解だったと思っている。日に日に元気になっていく千春を見るつれ、その思いは強くなる一方だ。
 だが、今後どうすべきなのか、ということに関してはまだ心が決まっていなかった。
 そんな状況で結婚の話が広まってしまったということに清司郎は少々戸惑っている。
 こうやってからかわれるくらいは、べつにかまわないのだが。

「午前の診察はもうこれで終わりですから、送って差し上げればよかったのに。……でもそんなことしたら小児病棟が大騒ぎになっちゃうかな」

 そんなことを言って、看護師はまたくすくす笑って診察室を出ていく。
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