エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 背が高くて、がっしりとした身体つき。涼やかな目元にスッと通った高い鼻梁、どこからどう見てもカッコいい清司郎が女性の目を引かないわけがないのだから。
 しかも看護師が言う通り、優秀な医師で……。
 と、そこまで考えて、千春の頭についさっき思い浮かべていたあの考えがまた浮かんだ。
 清司郎の恋愛経験のことだ。
 あんなにカッコよくて、女性に人気がある清司郎はやはりそれなりに恋愛経験があるとみて間違いない。
 いやそれどころか豊富だと考える方が自然なのではないだろうか。
 千春の胸が複雑な色に染まってゆく。
 彼が千春にキスをした理由が、なんとなくわかったような気がした。
 きっと彼にとっては、キスなんて本当に些細なことでしかないのだろう。
 気まぐれか、あるいはちょっとしたスキンシップか、とにかく深い意味などない。
 だからこそ、あんなに平然としていられるのだ。
 いやもしかしたら些細なことすぎてキスをしたこと自体もう忘れてしまっているのかも……。

「とにかく、この病院内を歩く時は十分に気をつけて。なーんてね、ふふふ」

 戯けるようにそう言って、看護師は去ってゆく。

「さあ、千春さん。私たちもそろそろ行きましょうか」

 倉橋もそう言ってロビーに向かって動き出す。
 ぐるぐるとなにかが胸の中を渦巻くのを感じながら、千春は彼女の後に続いた。
< 82 / 193 >

この作品をシェア

pagetop