エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
「どうぞ」

「おじゃまします……」

 読み聞かせの練習をするというのは本当だ。
 でも実はもうひとつ、ふたりには別にすることがあって、それは誰にも秘密だった。

「——うん、だいぶよくなった。……今夜はここまでだ」

 クマの子供がホットケーキを焼く絵本をたっぷり五回読んだ後、清司郎がそう言った。
 千春の鼓動がドキンと跳ねて、頬がひとりでに熱くなる。こくんと頷いて絵本を閉じると、これがふたりの合図だった。
 清司郎の腕がゆっくりと伸びてきて、ベッドに座る千春を包む。彼の香りが濃くなった。
 顎に手が添えられる。

「清君……」

「千春、口を開けて」

「あ、……ん」

 いきなりの深いキス。
 はじめての時は戸惑いだけだったその行為を千春は目を閉じて受け入れる。
 読み聞かせの練習の後、こうやって口づけを交わすのもふたりだけの習慣だった。

「ん、ん、ん」

 漏れる吐息が夜更けの部屋を秘密の色に染めてゆく。
 力が抜けて身を預けた清司郎の腕の中、薄く瞼を開いた先で彼が愉快そうに微笑んだ。

「だいぶ慣れたみたいだな」

 これで?と千春は思う。
 確かに、なにが起こるかわからないという恐れ自体はもはやない。
 でもすぐに夢中になって頭の中がふわふわとするのははじめての時とまったく変わらない。とても慣れたとは思えなかった。

「はじめはビクビクしてただろう?」

 清司郎の手が、千春の頬をそっと包む。
 ぼんやりとしたまま千春は答えた。

「でも……まだ胸が痛いくらいにドキドキする。これは慣れてもなくならない?」

 清司郎を見上げて首を傾げてそう尋ねると、彼の瞳の色が濃くなった。

「清君は……あ、んん……!」
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