エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 千春と清司郎の読み聞かせの練習は続いている。
 その成果が発揮できたかは不明だが、とにかくやりきったという小さな充実感を感じていた。

「あまりうまくはできなかったけど……」

 とはいえ、まだまだ反省すべき点は多い。新たな課題も見えてきた。

「そんなことないです。よかったですよ! 千春さん」

 真矢が目を輝かせた。

「千春さんの声って、すっごく優しくて柔らかいんですよね。ふんわりした感じが聞いてて心地よかったです。ねぇ、倉橋さん」

「そうね」

 倉橋が頷いた。
「プリンセスが出てくるようなファンタジーなんかがよく合うかもしれない。ふふふ、家で練習してるって言ってたものね」

「あ、ありがとうございます……」

 呟くようにお礼を言って、千春はうつむいた。
 練習をしていたことを褒められたはずなのに、別のことが頭に浮かんで頬が熱くなってしまう。誤魔化すようにかぶりを振って、やや急いでエントランスを出ようとする。
 でもあることに気がついて足を止めた。
「病棟に傘を忘れちゃった……」
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