再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司

逃げ込んだ先の穏やかな暮らし

「おはよう」
「おはようございます」

みんなが口々に挨拶を交わし足早に通り過ぎる。
更衣室を出た私も、白衣を羽織って歩き出した。

私、和田環(わだたまき)は消化器内科の医師。
身長は160センチでどちらかと言うと細身。
童顔で28歳の実年齢より幼く見えるせいか、今だに学生扱いされることも多い。
もちろんそのことに不満がないわけではないけれど、実際下っ端の私には文句なんて言えない。

私の卒業した大学は、関東近隣の二流私立医大。
研修先は都内の大学病院だった。
そこで研修医も含めて4年間勤務して、この春私はこの病院へやってきたのだ。
ここに勤務を初めて約2ケ月。
やっと同僚やスタッフの顔と名前が一致し始めたばかりで、覚えることはまだ山ほどある。
正直勤務がきついなと思うこともあるけれど、今の私には忙しいくらいがちょうどいい。
何しろ私は逃げ出してここに来たのだから。
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