再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
「どうした?」
固まってしまった私の顔を、敬が覗き込む。

一方、口いっぱいにワインが入った状態の私は返事もできない。

この苦みはワイン特有のものだろうか?
何とも刺激的なこの臭いは、添加物のない証拠だろうか?
薬品臭さを感じるのは、私の舌が貧しくて本物の味が分からないだけだろうか?
頭の中で色々と思い巡らすけれど、答えは出ない。

どうしよう・・・臭くて苦くて吐き出したい。

ただわかっているのは、このワインは地元のワイナリーからわざわざ取り寄せられた逸品だってこと。さっき敬が封を開けるのを見たから間違いない。
ここでおかしなことを言えば、場の空気が白けてしまう。
ダメだ、飲み込まないと。

ゴックン。
意を決して、飲み込んだ。

次の瞬間、喉に感じる違和感と、焼けるような痛み。込み上げる吐き気。

「どうした、大丈夫か?」
うずくまってしまった私を敬が抱える。

切れ間なく襲ってくる吐き気に、返事もできないまま私は膝をついた。

「おい、どうした?」
「しっかりしろ」
周囲からも次々と上がる悲鳴のような声が、何か異変があったことを告げている。

「環しっかりしろ」

すでに返事もできない状態の私は、ゆっくりと目を閉じる。
その時、少し離れた場所から真っ青な顔で私を見る塙くんが目に入った。
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