再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
「なあ環」

なぜかワントーン低くなった声の新太に名前を呼ばれ、私は顔を上げた。
どうしたのと小首を傾げた私を、先ほどとは違って鋭い視線で見つめる新太。

「君は一体どういうつもりで俺にキスをしたの?」
「は?」

どういうも何もキスをしてきたのは新太の方で、私は応えたに過ぎない。もちろん抵抗もしなかったし、同意の上での行為ではあるんだけれど・・・

「質問を変えるよ。あのキスはどういう意味だと思っていたの?」

こんな恥ずかしい話をよく真顔でできるなと思いながら、結構真剣な顔で聞かれれば答えるしかない。

「あれは、弱っていた私を慰めるために」
「じゃあ、環が弱っているときに杉原君がキスしても受け入れるの?」
「そんなことしません」
敬はあくまでもいい友人だもの。

「私は新太が好きだからキスしたんです。たとえ新太に好きな人がいても、片思いでもいいと思って」

はああー。
盛大な新太のため息。

グイッと掌で両頬を囲まれて、視線を合わせられた。
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