再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
先のことなんて誰にも分らない。
どれだけ幸せでもいつ災いが降りかかるかわからないし、ある日突然すべてを失うことだってないとは言えない。そう思うと幸せを望むことが怖い気もするし、私が側にいれば新太にまで不幸が降りかかるんじゃないかと不安にもなる。

「心配しなくても今すぐどうこうするつもりは無いよ。だから、まずはちゃんと食べることだ」
「うん」
無理してでも食べて体力をつけないとね。

「そして、しっかり眠ること」
「うっ」

私はすぐ横の運転席に座る新太を見つめた。

「もしかして、気づいていたの?」
「ああ」

事件の日から、眠ろうと目を閉じると塙くんが取り押さえられたときの光景がよみがえる。
地面に顔を押し付けられ、苦しそうに唸る塙くんにのしかかる何人もの警官。
中には無抵抗のはずの塙くんに殴り掛かる人までいた。
あの日の音も匂いも私の記憶から消えることがなくて、眠ろうとすると鮮明に浮かんでくる。

「ずっと眠れないんだろ?」
「・・・うん」

隠していたつもりなのに、新太にはお見通しだったか。

「お前の苦しみを代わってやることができないけれど、ずっとそばにいるからな。今はゆっくりと体を休めろ」

「新太」

ありがとう。そう続けたいのに口を開けば涙が漏れそうで黙ってしまった。
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