再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
復帰当日。

「おはようございます」
「あ、環先生。おはようございます」

病院の廊下ですれ違うスタッフ達は皆以前のようにあいさつを返してくれる。
どこも変わった様子がないことにホッとしながら、私は院内を歩いた。

「環、おはよう」
「あぁ、敬」

内視鏡室へ向かう途中敬に声をかけられた。

「今日から勤務だな」
「うん」

「大丈夫か?」
「うん」

休職中、敬は頻繁に連絡をくれた。
自分だって事件のせいでずいぶん迷惑をこうむったはずなのに、私のことを気遣ってくれる優しさがありがたかった。

「無理するなよ」
「うん。ありがとう」

考えてみれば、人が道を踏み外すのに大きな理由はないのかもしれない。
小さなストレスの積み重ねが限界を迎え、ちょっとしたきっかけで培ってきたものをすべて失ってしまう可能性は誰にでもある。
だからこそ今できることを精一杯しようと、私は復職を決めた。
もちろん無理をするつもりは無いけれど、ここで頑張らないと元の自分には戻れない。そんな気がしていた。
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