再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
「「お願いします」」
声をかけてから検査を開始する。

当然初めから難しい検査をさせられるわけもなく、定期健診程度の簡単な胃カメラ。
それでも、久しぶりのカメラに緊張して手が震える。


「どう?」
検査中盤、隣の検査室での検査を終えた新太が様子を見に入ってきた。

「順調です。これと言って気になる所見もありませんし」
「そう」

カメラを動かすのに必死な私に代わり一緒に入っていた研修医が答えるけれど、実はそんなに順調でもない。
研修医が言うように、患者さんの状態はとてもいい。
でも、私の方が・・・

「環先生、もう少し奥まで行ける?」
「え、ええ」

わかっている。私だってもう数センチ先まで確認しておきたいのに、右手がひきつって動かない。
あとちょっとなのに・・・

「変わろうか?」
いつの間にかすぐ隣に新太が来ていた。

「いえ、もう少し」

動きの悪い右手をもう一度動かして、再度チャレンジ。
しかし、

「変わるよ、どいて」
半ば強引に、新太に場所を奪われてしまった。
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