再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
あ、あの人。
そこにいたのは、普段内視鏡室では見ることのない産科の西村先生だった。

「どうした?」
新太の方も、意外な人物の登場に驚いている。

「実は新太にお願いしたい患者がいるの」
「患者って、産科の?」
「そう」

画面に向かって検査経過を入力している新太の横に座った西村先生は、一方的に患者の状態を説明し始めた。

どうやら産科に入院中の妊婦に胃カメラをしてほしいとの依頼らしい。
内視鏡は他科からの依頼で検査をすることはよくあるけれど、産科からの依頼は珍しい。

「消化器科あてに診察の依頼を出せばいいだろ?」

確かにそうすれば、消化器科の医師が診察して必要ならカメラもする。

「本人が嫌だっていうの」
「はあ?」
「もともと他院の消化器科で経過観察中の患者で今たまたまうちに入院しているの。最近カメラもしていないみたいだし、一応経過だけ確認しておきたくて」
「わかった。検査のオーダーを入れておいて」
「安定期に入っているとはいえ一応妊婦だし、検査には私も立ち会うから」
「わかった」

あっという間に話がまとまり、2日後には検査の予定らしい。
患者の状態や経過を確認する2人は医師同士の対等な関係に見える。
それに比べ、胃カメラ1つ満足にできなくて助けてもらっている私は、自分の不出来が情けなくていたたまれない。
嫉妬なのか、妬みなのか、わからないモヤモヤを抱えた私はそっとその場を離れた。
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