再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
「ねえ、どういうことなの?今日の相手は副院長の甥御さんって聞いたんだけれど?」

敬が副院長と親戚だなんて聞いたことがない。

「実は、俺の母さんが副院長の妹なんだ」
「へぇー」
びっくり。

でも不思議だな。
何で今まで言わなかったんだろう。隠すようなことではないと思うし、親戚だってアピールする方が敬だって働きやすいだろうに。

「母さんが駆け落ちをして家を出たから実家とも絶縁状態でね。親戚付き合いも全くないし、院内でも知っているのは数人だけなんだ」
「そうなのね」

私も全く知らなかった。
ただ、敬は副院長に対して結構遠慮なくものを言うし、私のことでもすぐに伝わるなとは思っていた。
そうか、そんな関係があったんだ。

「もともと地主の娘として苦労もせずに育った母さんはどうしても父さんと一緒になりたいって家を出たんだ。でも、慣れない生活の苦労がたたったのか俺が中学に上がる前に病気で亡くなって、俺は父さんに育てられたんだよ」
「ふーん」
敬も見かけによらず苦労人なのね。

「大学は奨学金をもらって医学部に進んで、さあ研修先をどうしようって時に副院長に声をかけられた。もちろん最初は断ったけれど、何度も誘われて最後は根負け。もちろんうちの病院が魅力的だったのもあってこの地にやってきたってわけ」
「私と似てるね」
「そうだな」
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