再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
「和田先生、悪いんだけれど・・・」

11時を過ぎやっと外来の受付時間が終わった頃いきなり顔をのぞかせたのは、隣の診察室で外来患者を診ていた消化器科の上田先生。
消化器科歴15年のベテランで、部長がいない今日の責任者的立場の人だ。

「どうかしました?」
なんだかすごく申し訳なさそうに私を見ている。

「病棟で急変が重なって、研修医たちでは対応できないらしい」
「他の先生は?」

「内視鏡も超音波も予約がびっしり入っているから、動ける人間がいない」

それは、大変だ。
でも、私だってまだ患者が残っている。

「とにかく病棟に上がってみるよ。僕の外来はあと5人ほどだから、お願いできる?」

5人か、多いな。でも、仕方ない。

外来中の先生を呼ぶのは病棟も相当困っているってことで、こんな時は助け合うしかない。

「和田先生、いい?」
「はい」
そう答えるしかなかった。

「悪いね。実は救急にも呼ばれていて」
「えっ?」

さすがに外来と救急は同時に見れないけど。

「心配しないで、救急は皆川先生に頼んだから」

えっ。あっ。

ドクン。
その名前を聞いただけで、心臓が大きく打つのが分かった。

「無理しなくていいから、困ったら呼んでね」
「はい」
本当は呼ばれたら困るくせに。

じゃあ頼んだよと、上田先生は駆け出して行った。


自分の患者が10人。上田先生の患者さんが5人。頑張れば1時間半ほどで終わるかな。
そんな目測を立て、私は外来をこなしていった。
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