再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
「あれ、和田先生もう帰るの?」
「はい。明日も仕事なので」

店の入り口辺りでちょうど今日の幹事に声をかけられ、「すみません失礼します」と店の外に向かった。

明日は、今日の当直を外す代わりに入っていた土曜日の勤務。
別に予定がある訳でもないから文句も言わなかったけれど、こうして飲み会を抜ける言い訳ができてよかった。

油断しているとまた塙くんにつかまりそうだし、早く帰るに越したことはない。幸い皆川先生も部長につかまって、研修先のドイツの話で盛り上がっているからいいタイミングだった。

それにしても、皆川先生は3年前と何も変わらない。
いい意味でも、悪い意味でも、あの頃のまま。

あぁーあ。

どうせなら、あの頃に戻りたい。
ひたすら皆川先生を追いかけていたあの頃。今の塙くんなんかよりもよっぽどストーカー的に先生の側を離れなかった。
今逆の立場になってみれば、迷惑な部下だったろうと思う。
その上・・・

「はあぁあー、もうっ」

思わず大きくなった声に、すれ違う人が振り返る。

せめて、自分の頭から当時の記憶を消せたらどんなにいいだろう。
そんな薬ないかしら。
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